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なぜ鎌倉シャツのドレスシャツには「胸ポケット」がないのか?10年前の「ポケット論争」から考える、現代の装い

実は10年以上前、鎌倉シャツの社内とお客様の間で、ひとつの大きな「論争」がありました。ドレスシャツ(ボタンダウンを除く)から、一斉に胸ポケットをなくすという決断。当時、創業者・貞末良雄が綴ったコラムをベースに、今改めて「服を着る意味」を考えます。

2026.09.02 読む、服の知識・歴史

ビジネスウェアの選択肢が広がり、オフィスカジュアルも定着した現代。「着心地の良さ」や「使いやすさ」を大切にする一方で、ふと「自分をどう見せたいか」という装いの原点に立ち返る瞬間はありませんか?

実は10年ほど前、鎌倉シャツの社内とお客様の間で、ある大きな決断と議論がありました。
それは、ドレスシャツ(ボタンダウンを除く)から胸ポケットをなくすという決定です。

当時、創創業者の貞末良雄が綴ったコラムを振り返りながら、私たちが「胸ポケットなし」に込めた想い、そしてこれからの装いについて改めてお届けします。

1. お客様の声に向き合った「ポケット論争」

2013年、私たちがドレスシャツの胸ポケットを外す決定をした際、多くのお客様から本当にさまざまなお声をいただきました。

「ペンやIDカードを入れる場所が必要。日本のビジネス現場ではポケットがあってこそ便利なんだ」

「クールビズで上着を着ない時期、ポケットがないと困る」


こうしたご意見は、日々現場で戦うビジネスパーソンにとってどれも切実で、極めて合理的なご指摘でした。日本の気候風土や働く環境を考えれば、「便利で機能的なシャツ」が求められるのはごく自然なことです。

一方で、こんなお声も届いていました。

「海外の伝統的な仕様である『ポケットなし』の美しいドレスシャツを、ずっと探していた」

「ジャケットを羽織ったときのVゾーンを、一番綺麗な状態で着たい」

「日々の使いやすさ(機能)」を大切にされるお客様と、「本来のエレガンス(美学)」を求めるお客様。どちらの意見も間違いではなく、それぞれの装いに対する誠実な想いがありました。

2. ニューヨークで実感した「世界基準」の装い

それでも私たちが「ポケットなし」へと舵を切った最大のきっかけは、鎌倉シャツのニューヨーク出店でした。

オープン初日、現地のお客様から「なぜドレスシャツにポケットがあるのか?」と尋ねられたのです。

「シャツは本来アンダーウェア(肌着)であり、物を入れるためのものではない。物を入れるならジャケットやバッグを使えばいい」
「ジャストサイズで仕立てたシャツのポケットに物を入れると、シルエットが崩れ、せっかくの上質な生地も傷んでしまう」


クラシックなドレスシャツの発祥である欧州では、下着に由来するドレスシャツに胸ポケットをつけないのが伝統的なルールです。

創業以来「世界で活躍するビジネスマンを応援する」を掲げてきた私たちにとって、「グローバルなビジネスの場で、お客様が気後れすることなく胸を張って着られる一着を届けたい」という強い想いが固まった瞬間でした。

3. 「便利さ」の先にある、「情緒」という価値

日本の衣料の歴史を振り返ると、戦後の物がない時代、服はまず「寒さをしのぐ」「物を運ぶ」といった機能消費から始まりました。
しかし時代が豊かになるにつれ、人々は服に「格好よさ」や「着たときの誇らしさ」といった情緒的な価値を求めるようになります。

胸ポケットのあるシャツが持つ「日常での使いやすさ」は、間違いなく素晴らしい価値です。
ですが私たちはあえて、日常の中に「身につけるだけで少し背筋が伸びるような美しさ」を提供したいと考えました。胸元に一切の無駄がないシャツは、ジャケットを脱いだ瞬間すらもスタイリッシュに引き立ててくれます。

4. これからの時代に、私たちが届けたいもの

多様な働き方が広がる現代だからこそ、服選びに「たった一つの正解」はありません。
使いやすさを優先する日があっても良いですし、道具としての服を選ぶ場面があって当然です。

(日常での利便性を大切にしたい方には、鎌倉シャツのオーダーシャツにて胸ポケットをお付けするカスタマイズも承っております。お客様それぞれの働き方やライフスタイルに寄り添うことも、私たちの大切な役割と考えているからです。)

ただ、大切なプレゼンがある日、勝負の商談、あるいは自分を高めたい特別な日。
そんな時には、ぜひ胸ポケットのない正統な既製ドレスシャツに袖を通してみてください。

「便利さ」の先で手に入るのは、胸元に一切の無駄がない洗練されたシルエットと、職人が仕立てた生地本来の美しさ。そして、世界基準の装いを身にまとっているという密やかな自信です。

どのような選択であっても、これからも鎌倉シャツは、お客様一人ひとりの日々に寄り添いながら、世界の檜舞台でも通用する「誇れる一着」を作り続けてまいります。

2014年創業者コラムはこちらから

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