松下幸之助を考える Vol.4
私は、松下氏の「自分の仕事」について考える時、同時に井上雄彦の「スラムダンク」を思い出すことがある。「スラムダンク」が生み出した数々の名言にもその教えに通じるものがたくさんあるように思う。
今、これを書いているのはMONTHLY KAMAKURA Vol.34の原稿を書き終えた翌日の2023年9月21日(木)の朝である。
さらに言えば、この原稿のベースを書いていたのは6月くらいだったように記憶している。
今は文章を書くのに適した時代で、空いた時間にスマホで簡単に書くことができ、パソコンを開く必要もなく、鉛筆やノート、消しゴムも不要、さらに驚くべきことに、スマホやタブレットなどで書いても瞬時に「同期」が行われるのだ。
昔の作家が見たら、間違いなく腰を抜かして驚くだろうなと思いながらこの文章を書いているところである。
作家といえば、大作家であった夏目漱石は鎌倉・円覚寺において、世界に禅を「ZEN」として伝えたとされる釈宗演に参禅していたことでも知られる。
厳しい修行の中、その当時のことを回想して執筆したとされる「門」という小説だが、もし、当時にスマホなどがあったら執筆スピードは数倍にもなっていたように思う。
と書きながら、Kindle unlimited (定額の無料プラン)で「門」を発見したのでクリックしてみた。
本来なら、本屋に行って〜場所を探して〜お会計という時間の流れだったはずが、Kindleなら今すぐに「門」を読むことが出来るのである。
出典: 「門」 夏目漱石/新潮社
改めて、私達はそんなハイスピードな時代に生きているわけだが、今回は、Vol.2で書いた「自分の仕事」についてさらに深く掘り下げて考えてみたい。
私は、松下氏の「自分の仕事」について考える時、同時に井上雄彦の「スラムダンク※」を思い出すことがある。※バスケットボールを題材にした漫画
井上氏は、「バガボンド※」などからも推察することが出来るように、松下氏と同じく「禅」に大きな影響を受けていると思われる。※宮本武蔵を題材にした井上雄彦の漫画
出典:「バガボンド 30巻」 井上雄彦/講談社
「スラムダンク」が生み出した数々の名言にもその教えに通じるものがたくさんあるように思う。
漫画の中で、名将と名高くも「ホワイト・デビル」という異名を持ち、教え子達から恐れられていた安西監督は、大学バスケットボールのスターで、自己中心的なプレーを続ける谷沢という選手にこう言った。
「谷沢、お前なんか勘違いしとりゃせんか? お前のためにチームがあるんじゃねえ、チームのためにお前がいるんだ!!」
だが、谷沢は安西監督の言うことを無視して、自己中心的なプレーが許されると思われた(と谷沢は思っていたが実際は違った、どの国も同じである)アメリカに渡った。
そして、谷沢は、現地で鳴かず飛ばずであっただけでなく、悲惨な結末を迎えることになったのである。
「お前のためにチームがあるんじゃねえ、チームのためにお前がいるんだ!!」
深い言葉である。
実践するのは簡単ではない。
出典:SLAM DUNK 新装再編版 14巻 井上雄彦/集英社
「いつかの先生の言葉が近ごろよく頭にうかびます。
お前のためにチームがあるんじゃねえ、チームのためにお前がいるんだ!!
ここでは誰も僕にパスをくれません。
先生やみんなに迷惑をかけておきながら、今おめおめと帰るわけにはいきません。
いつか僕のプレーでみんなに借りを返せるようになるまで、頑張るつもりです。
バスケットの国、アメリカのー
その空気を吸うだけで僕は高く飛べる気がしたのかなぁ…」
(『スラムダンク』より抜粋:谷沢のアメリカからの手紙)
鎌倉シャツはコロナ渦の真っ最中の2020年、鎌倉にクリエイティブ・オフィスを新設し、ローカリゼーションを掲げ、鎌倉へと回帰した。
幸運なことにその中で様々な方と出会い、多大なるご協力をいただきながら、一歩一歩仕事を進めることが出来た。
しかし、鎌倉シャツ創業の地への「鎌倉回帰」、「作務衣」や「ボタニカル・ダイ」などは、鎌倉シャツの一部の社員によって成し遂げられたという見方があるようである。
果たしてそうなのだろうか?
一部の社員のために地元・鎌倉の方々は協力してくれることがあるのだろうか。
地元鎌倉の方々は、「鎌倉シャツ」という看板があるから話を聞いてくださるのであって、「この会社が地元に貢献し、社会貢献してくれるだろう」と少しでも感じてくださらなければ、誰も手を差し伸べてくれるはずもないのである。
改めて、松下幸之助を考える Vol.2で書いた、「自分の仕事」の精神を忘れてはならないと思う。
「自分の仕事をああもしたいこうもしたいと思うのは
その人に熱意があればこそで、まことに結構なことだが
自分の仕事は世の中の仕事であるということを忘れたら
それはとらわれた野心となり、小さな自己満足となる。」
(『道をひらく』より抜粋)
鎌倉シャツがコロナ渦のピンチの最中、鎌倉に回帰し、地元の方々と協業出来たのは個人や己のためではなく、「世の中の仕事」をしようとしたからだと思う。
「とらわれた野心や、小さな自己満足」のために、忙しい地元の方々が協力してくれるはずはない。
鎌倉シャツの仕事は多岐に渡る。
サービスする人はサービスで、物を作る人は物で、テクノロジーを扱う人はテクノロジーで、鎌倉回帰をする人はその行動で、各々が各々の役割、仕事を果たすから、会社は成り立つのである。
「与えるというのは、わかりやすくいえばサービスするということである。
自分の持っているもので、世の中の人々に精いっぱいのサービスをすることである。
頭のいい人は頭で、力のある人は力で、腕のいい人は腕で
優しい人は優しさで、そして学者は学問で、商人は商売で…。」
(『道をひらく』より抜粋)
世の中の仕事は、松下幸之助を考える Vol.1で書いた「サービスする心」にも通じるのである。
そんなわけで、今回のVol.4はVol.1とVol.2を奇跡的にうまくまとめることが出来たのたが、小さな自己満足はあるものの、とらわれた野心があったわけではないとお伝えして、次回のVol.5に繋げたいと思う。
つづく
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