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ZEN通信・第2回 <前編>

今回は京都の妙心寺・退蔵院の松山大耕さんにインタビューさせていただくことが出来ました。顧客の皆様の何かのヒントになることが出来たら、それに勝る喜びはございません。

2024.10.29 貞末哲兵コラム


顧客の皆様、いつも鎌倉シャツをご愛顧いただきありがとうございます。

朝晩の寒暖差が感じられ、本格的な秋が訪れて参りましたが、顧客の皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。

前号は、鎌倉シャツがニューヨークへ再上陸するストーリーを、弊社代表である貞末奈名子からお届けさせていただきました。




顧客の皆様はもちろん、関係各所からも大きな反響をいただきましたことを、この場をお借りして心より御礼申し上げたいと思います。

鎌倉シャツは、ニューヨークを皮切りに、全米各地におけるトランクショーなども大変ご好評をいただいておりますが、中国、東南アジア、欧州や中東に到るまで多くの新しい顧客の皆様を獲得することが出来ております。




今後、この動きはより加速し、海外事業に力を入れていくことなると思いますが、日本の一企業として恥ずかしくない振る舞いをしていかなくてはと思っております。

日本人が海外に出る時、自国のことを語れなくてはバカにされてしまいますし、日本の文化は世界に誇るべき素晴らしいものであるのは間違いありません。

多くの日本の素晴らしい文化が世界からより一層注目を集めている中で、特にZENは欠かせないものになっています。
欧米では、ZENは宗教ではなくカルチャーとして幅広く受け入れられ、マインドフルネスなどに変換され海外の新しい文化として、逆に日本でも注目を集めている現状もございます。

そこで、今回は京都の妙心寺・退蔵院の松山大耕さんにインタビューさせていただくことが出来ました。

松山さんは退蔵院の副住職でいらっしゃるだけでなく、長きに渡りスタンフォード大学の客員教授、京都の観光大使も務めていらっしゃることから、日本文化としての禅、海外から見たZENの両方の視点をお持ちでいらっしゃいます。

今回の松山さんへのインタビューが、顧客の皆様の何かのヒントになることが出来たら、それに勝る喜びはございません。

それでは、本編の始まりです。


ZENはゲインではなく、ルーズである



私   「松山さん、お忙しい中お時間いただきありがとうございます。本日は様々なお話をお伺いしたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。」

松山さん「こちらこそ宜しくお願いいたします。」

私   「松山さんとは、コロナ渦に鎌倉シャツがSAMUEを作ったことをきっかけに、お会いさせていただくようになりました。今日も鎌倉シャツ製のダウンSAMUEをお召しいただき(※)、ありがとうございます。」

(※)インタビューは2023年12月に行われました


DOWN SAMUE 作務衣/撥水ダウン

46,200円 (税込・参考価格)



松山さん「冬はこれを着てしまうと他のものは着られません。以前も申しましたが、“罪なSAMUE”(※)をお作りになりましたね(笑)」

(※)お寺の方には修行にならないくらい暖かいという賛辞

私   「さて、私が松山さんの著書や発言されている言葉の中で、とても好きなものがあります。それは「ZENはゲインではなく、ルーズである」という言葉ですが、私のようなZENを勉強しようとしているビギナーにはとても分かりやすく感じました。




私は、この言葉をきっかけにZENが身近に感じられ、少しずつ学ぶことになったのですが、松山さんのように英語でZENを表現する方はあまりいらっしゃらないように思います。
松山さんはスタンフォード大学(※)で客員教授をされていたり、英語で講演されたりといったことから「ZENはゲインではなく、ルーズである」という言葉が出てきたのでしょうか?」

(※)あのスティーブ・ジョブズの卒業式スピーチでも有名で、数多くのエリートを輩出している




松山さん「言葉の中にある深い意味を掘り下げていくには、日本語や漢字ってすごく含蓄があるので、難しくなってしまう場合があると思っています。もちろん、漢字が持つ意味も重要だとは思っていますが、私自身は、お経とか経済学なんかは英語の方が伝わりやすく、分かりやすいと考えているのです。」

私   「なるほど、そういったお考えがあったのですね。」

松山さん「英語で言われるとなんかスキッとするんですよね。もちろん、スキッとしただけではダメで、その奥に深い意味合いがあって、それを探っていくには昔ながらの漢字とか基本的な知識はもちろん必要なんですけども、そもそも、興味を持ってもらえなかったら意味がないわけです。」




私   「仏教やZENは最初のハードルさえ越えられれば、ためになる話ばかりなのでどんどん勉強したくなると思います。」

松山さん「そうなんですよね。ですからスキッとしたものでまず興味を持っていただき「これはどういうことなんだ?」って深掘りしていくのが良いと思います。」

私   「ただ、私達は普通に生活しておりますので、お寺の方にお会いする機会は少ないですし、ZENに触れるきっかけがなかなかないのが現状です。」

松山さん「一般の方は、お坊さんにはお葬式の時にお会いして、なんかお経を唱えているな、くらいのイメージしか持っていないでしょうね。」

私   「そうだと思います。私は、今でこそたくさんのお寺の方にお会いさせていただくようになりましたが、一般の方もZENの教えとかそういったものに触れる機会さえあれば、根本は日本人ですし、興味を持って好きになれるはずだと思っています。
そんなわけで、ZEN通信も皆様のお役に少しでも立てれば、という気持ちで始めました。」

松山さん「ZEN通信 Vol.1(※)はとんでもない方が登場されていましたね(笑)
ZENは伝えやすくする意味でも、まず、言葉を分かりやすくする、というのがいいと思います。」

(※)ZEN通信Vol.1では円覚寺の横田南嶺老師へのインタビューをした


禅画は気付きの手段



私   「松山さんの言葉は私にはとても響きました。例えば、仏教には十牛図(※)というものがあるじゃないですか。知るとすごく面白いですし、深い教えがあると思うんですけど、私が幹部会議とかで、十牛図というのがありましてね。みたいな話をしたりして、ご紹介はするんですけど、そこから、じゃあ幹部の人達が興味を持つかというと、なかなかそうなっていかないのが現状ではあります。」

(※)悟りにいたる10の段階を10枚の牛の図と詩で表したもの

松山さん「やはり、十牛図をもう少しマイルドに伝える方法があるのかもしれませんね。」

私   「そうですよね、般若心経(※1)もすごく面白いし、とてもためになるお話ですよね。260文字くらいの言葉が並んでいて「実体がない」「空である」というような話をしてもなかなか興味を持ってもらえないので、例えば 薬師寺さん(※2)が歌にすることで興味を持つ方はすごく多いと思うんです。」

(※1)正しくは、般若波羅蜜多心経といい、空の理法を悟ることが根本思想とされる大乗仏教の教理が、短いこの一巻の中にすべて納まっているといわれてきた経である
(※2)薬師寺寛邦さんは、仏教を使ったシンガーソングライターの第一人者




松山さん「YouTube再生400万回越えなど、薬師寺さんのご活躍は目を見張るものがありますよね。般若心境をマイルドにしてくれました。
実は今ね、十牛図の映画が作られているんですよ。たしか「黒の牛」というタイトルだったと思います。日本、台湾、アメリカの国際共同製作作品になるそうで、もうまもなく公開になるはずです。
それでね、面白いことにその映画はセリフがない。セリフはないのですが、音はあるんですよ。台湾人の俳優さんが出てきて、日本の幕末をテーマにしていたりするんです。十牛図は東アジア全般で知られた幅広い教典なので、多くの人が目にすることになると思います。」

私   「なるほど、十牛図はかなり国際的なのですね。」

松山さん「セリフがないイコール言葉はいらないってことじゃないですか。英語でもない。」

私   「十牛図をテーマに人間の成長というか、修行の深みを表現するというのも新たなチャレンジになりますね。」松山さん「面白いと思いますし、映像とか、先程の薬師寺さんの歌とか、そういう直感的なものが、やっぱり大事ですよね。
まず、感動するとか、そういったことをもっと大切にした方がいいと思っています。
ヨーロッパだと、キリスト教、カトリック、プロテスタントなど、宗教が人々に染み付いているので当たり前なんですけど、最後の晩餐とか、キリストの誕生とかの絵には、絵だけで字がないんですよ。
ヨーロッパには、聖書なども熟読している方がとても多いので、絵に説明がいらないわけです。絵以外にいらんことを書かない、見たら分かる世界なんですね。ところが、日本の禅画(※)となると、字がないと成り立たない。絵に文字の解説をしないと何のことかわからないのが禅画の特徴なのです。」

(※)「禅画」はおもに近世禅僧が描いた絵画という意味で使われています。なかでも、白隠慧鶴(1685~1768)と仙厓義梵(1750~1837)などが有名




私   「禅画は気付きの手段とも言われていますよね。」

松山さん「ええ、気付きの手段なので、例えば有名な白隠禅師という方が描かれた「だるま」がありましてね、だるまが書いてあって、横に「これをだるまと読んではならない」って書いてあるんですよ。」

私   「だるまがだるまじゃないって、どういうことなのですか?」

松山さん「そうですよね、それで、「おっ!」とか気付きとか引っかかりを作るという作用が、禅画にはあるんですよね。ですから、昔の人が現代に生きていたら、それこそもう、YouTubeなどの映像や歌なんかもですが、禅の教えを伝えるためにあらゆるものを駆使していると思いますよ。」

私   「なるほど、気付きを与えるために多くの手段を用いるということなのですね。ただ、現代の我々はテクノロジーを駆使し過ぎたことによって情報過多になって分からなくなってしまっている部分もありますよね。私は禅画がとても素敵だと思います。」

松山さん「そうなんですよ。だから、禅画のようにすごいシンプルですけど、「おっ!」っと思わせるようなことや仕掛けが大切ですよね。
十牛図の映画もセリフがないっていうのが、とても素晴らしいと思っています。
この映画はシンプルにストーリーを白黒の映像だけで伝えていくのですが、昔ながらの手法であってもシンプルに奥が深い世界に通じるのだと思います。」


禅問答「瓢箪でどうやって鯰を掴まえる?」



私   「細川晋輔さん(※1)の龍雲寺には白隠さんの禅画があって、色々教えていただいております。
その中に「水面に映る月に手を伸ばす猿の絵」があるのですが、様々なたくさんの解釈があるそうですね!月は掴もうとしても掴めないとか、掴もうとしている月は元々自分の上にあった。
他にも解釈は色々あるそうですが、とても面白いです。退蔵院さんにある瓢鮎図(※2)も禅画ですよね。」

(※1)世田谷の龍雲寺の住職。「禅とジブリ」など多数の著書を持つ
(※2)国宝に指定されている

松山さん「はい、そうです。」

私   「瓢鮎図は日本最古の水墨画で「瓢箪でどうやって鯰を掴まえる?」という禅問答が描かれているそうですが、松山さんとしての回答はどんな感じなのでしょうか?」

松山さん「私はまだまだ浅いので回答は持っていません。」

私   「いやいや、そんなことはないと思います。」

松山さん「ただ、私の祖父が出した答えというのがあります。
退蔵院にはお庭があって池があるんですけれども、それは瓢箪型の池なんですよね。その池の中に鯰がいるんですよ。それで、私の祖父は、瓢箪型の池を作って、そこで鯰を飼うという回答をしたわけですね。」

私   「なるほど!そういう回答だったんですね!」




松山さん「意味するところは、私たちはどうしても、外に、外に、答えを求めてしまいがちだけれども、実は中にいるぞ、答えは近くにあるぞ、というのが言いたかったんじゃないかなと思うんですね。」

私   「瓢箪を手に持って鯰を掴まえるのではなくて、瓢箪の形をした池の中に鯰を捉えるのですね。」

松山さん「その通りです。」

私   「“瓢箪そのもので鯰を掴む”ということに囚われると全体が見えなくなるという意味になるのでしょうか。」

松山さん「そうですね。「これな!」みたいな感じが、禅的な考え方なのです。」




私   「面白いですね~!!ところで、退蔵院さんにあの宮本武蔵が修行していたという逸話があるそうですが、そのあたりを詳しく教えてください。」

松山さん「宮本武蔵は妙心寺の愚堂禅師のもとへ参禅に足を運び、武蔵が円相図の教えを求めた時、退蔵院所蔵の瓢鮎図を目にしたのではないかと伝わっています。
武蔵がお手製で刀の鍔を作っているんです。そこにさっきの瓢鮎図の謎が掘り込んであって、今でも岡山県に残っているんですよね。」

私   「武蔵が修行した様子も伺える素晴らしいエピソードですね!」

松山さん「まあ、でも多くの武士の皆さんとかも、かなり見に来ていたみたいですね。それは、他のところに色々書いてあるんです。」

私   「やはり、武士の方もそうだと思うんですけど、戦国大名なんかも、仏教とか禅の方にいきますよね!」

松山さん「結局、その当時は、生きる、死ぬっていうのを真剣に考える時代なんですよ。それで、生きる矜恃を明らかにする、というようなことを世の中に求めたのです。」

私   「教科書なんかには、そこまで書いてないんですよね。」

松山さん「そうですよね、自ら求めないと誰も教えてくれないかもしれません。」


<後編>へ続く…

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