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鎌倉シャツ創業者との対話 Vol.5

鎌倉シャツ副社長でディレクターの貞末哲兵が、創業者である父・貞末良雄について語ります。

2024.04.10 ブログ


今、これを書いているのは2023年の9月23日(土)の朝である。

この日は雨が降っていたため、いつものスターバックスには行かずに、自宅にある一畳程度の書斎でこれを書いている。

一畳では書斎と呼ぶに相応しくないかもしれないが、禅の修行僧は「起きて半畳、寝て一畳」というスペースで無限の修行を営むそうである。
そう思えば、私の自宅にある一畳の部屋にも有り難さが増し、座って本を読んだり、文章を書いたりするのにこれ以上のスペースは必要ないのである。


昨日は、都内で株主総会の後、三菱商事の方々から会食にお招きいただいた。
鎌倉シャツの社外取締役でもあり、三菱商事の山口さんがチョイスしてくださったイタリアンは最高だった。

私はイタリアで長い期間に渡って、レストランを調べたりアテンドしたりも多かったので分かるのだが、多くの人に納得していただける店を見つけ、予約をするのはなかなか大変なことである。酒を飲まない、基本的に肉、魚を好まない(食べないことはない)ことにしている私のことを考慮してくださったわけではないと思うが、野菜料理の大変美味しいイタリアンをご紹介いただいた。

「AL CEPPO」(アルチェッポ)という、本場のイタリアンにも負けない店で、白金がお近くの方は是非いらしてみてはいかがだろうか。


さて、今回は、前回の Vol.4 に続き「食」について掘り下げてみることにしたい。

すでに何度も述べているように、食についての深い見識を持つことは、衣の商売をする上では欠かせない。衣においては上質な服を着て、その正しさを説いているのに、食になるとコンビニのパンとおにぎりが基本ではあまりにも説得力がないのである。

鎌倉シャツの創業者は、VANの石津謙介さんの弟子であったこともあって、やたらと食についてうるさかった。

その彼が好きだったお店の一つに東京・三宿の「一隆」(いちりゅう)が挙げられる。

築地(現在は豊洲か)の優れた仲買人、仕入れ先と強烈なパイプを持つ一隆には、常に世界最高レベルの海鮮が集まる。その究極の食材を生かすために、シンプルな料理法で最高の和食を提供してくれるのが一隆だ。そして、料理のボリュームも凄く、なおかつ お財布にも優しいのである。


創業者 「哲兵、この店は魚料理の鎌倉シャツと言える。 一流の仕入れ先を持ち、最高の食材を生かし切るシンプルな調理法、太っ腹な盛り付け、そして値段は抑えてある。」


一隆は、創業者が鎌倉シャツを創業する前から存在しており、また、彼は(一隆を鎌倉シャツの)ビジネス・モデルを構築する上で参考にしていたので、本当は「鎌倉シャツはシャツ業界の一隆と言える」というのが正解かもしれない。

いずれにしても、一隆のご主人と鎌倉シャツの創業者はとても仲が良く、カウンター越しにビジネスの話なんかをしていたのが懐かしい。


創業者 「いかに、優れた生地を作る工場と組めるかがスタートだ。 そして、優れたデザイン・パターン設計があり、それを組み立てることの出来る腕を持つ工場と取引することが何より重要だ。」


この哲学は極めてシンプルかつオーソドックスだが、アパレル業界はもとより、飲食業界でも一隆のように実現しているお店は少数と思われる。


創業者は終生、この哲学を変えることは決してなかった。

なぜ 彼は、その哲学を曲げずに実現し続けることができたのだろうか。
なぜ 良い商売をする上で必要と思われるセオリー(良い素材、良い組み立て)でありながら、一般的にはなぜ実現することが難しいのだろうか。

それは、自らの仕事の領域においてだけ、その哲学を適応させる人が多いからのように思う。

あるアパレル業界の人間が、こだわりのある服を着る→こだわりのない食事をする→この時点で彼の人生におけるこだわりはこの時点で一度途切れる。
貞末良雄は、服にこだわる→こだわりのある食事をする→こだわりはいかなる局面においても持続する。
衣に関わるビジネスをしているならばこの「哲学の持続」について考えてみたいと思う。


鎌倉シャツの創業者が今でも社員に伝えたいことの一つは、「食にこだわれ」である。

しかし、多様性、ダイバーシティが叫ばれる現代において、この価値観は、もちろん誰にも強要するようなものではない。
異常なまでにこだわりを持ち続けた「鎌倉シャツの創業者の哲学」があったことを、その記憶に留めておいていただけたらと思うまでである。



つづく

1996年 鎌倉本店での写真(左:貞末良雄、右:石津謙介 氏、撮影者:関戸勇 氏)

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