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鎌倉シャツもう1人の創業者との対話 Vol.4

鎌倉シャツ副社長でディレクターの貞末哲兵が、創業者である母・貞末タミ子について語ります。

2024.04.10 ブログ


今これを書いているのは5月28日(日)の9:30を回ったところで、例によってスターバックスでこのブログを書いているのだが、平日早朝と違って、店内は多くの観光客や地元の客で賑わっている。


これからイタリア・コモのネクタイ生地サプライヤーであるCANEPA社のGIORGIO氏が、コロナ後数年振りに鎌倉に来ることになっている。

CANEPA社と言えば、私が最初に訪れたのは今からおよそ15年前の30歳くらいの時だった。
CANEPA社がBREUER社のネクタイ生地を作っている(もちろんCANEPAだけではない)という噂を聞きつけた、若かりし私と弊社役員の佐野はCANEPA社を訪問することに成功したのだった。


なぜ、「成功」という言葉を使ったかというと、当時の鎌倉シャツには、工場やファクトリーとダイレクトに取引することが「鉄の掟」として存在していた。

他の小売業と同じように問屋や代理店を通して取引してしまうと、買い付けた商品は彼らの管理下に置かれてしまう。


一つは、「上代の縛り」(問屋や代理店はその国の上代を統一することが業務の一環としている)があるため、販売価格は全ての小売店で横並びとなる。また、ファクトリーから直接「情報が入ってこない」ことも大きな問題で、日本におけるほとんどの小売店は現地の情報を持っていない。
したがって、日本国内において特にヨーロッパの工場と取引するにあたっては、この二つ(上代の縛り、情報封鎖)の暗黙のルールに従わなくてはならない状況にある。


そこで、鎌倉シャツではイタリア修行から戻った私と佐野を中心に、当時「禁断」と言われていたイタリア・シルク産業の聖地であるCOMOへ、ダイレクトにアタックすることを始めることになったのだ。


「ダイレクト・アタック」はほとんどの小売店が行っていない手法で、問屋や代理店が現地の情報を遮断しているため、実行するのは難しい。COMOへの訪問自体は、私が入社する前からこのブログのタイトルにもなっているもう一人の創業者である貞末タミコが何度も訪れていた。

しかし、当時は他の小売店同様、メーカー経由で少量のネクタイ生地を買っていたので、ダイレクトな取引というわけにはいかなかった。



タミコ 「哲兵、あなたがCOMOに行ってネクタイを選んでくれたらいいわね〜!」

私   「そんなこと できる訳ないじゃないですか。」

タミコ 「あなたは子供の頃からとてもセンスが良かったから、絶対大丈夫よ!私には自信があるわ。」



当時、他のアパレルメーカーに勤めていた私はネクタイの生地はもちろん、イタリアのCOMOがどんなところかも全く分からなかった。何の自信も経験も情報も持っていなかった私が、現在、貞末タミコが期待するような「ネクタイ生地を選ぶこと」になるとは夢にも思っていなかったのである。

ところが、創業者達やその他多くの社員の応援や励ましもあり、私にとって「COMOへのダイレクト・アタック」こそが 生きがいとなっていた時期があったのだから、人生は分からないものだ。

ダイレクット・アタックのメリットは、上述した問屋や代理店を通すことの逆で、上代を自由に設定し、ヨーロッパの情報を十二分に会社に持ち帰ることが出来ることにある。
また、当たり前だが、直接取引すれば中間のマージンが発生しないため、販売価格を抑えることが出来る。


CANEPA社は、シルクを中心としたヨーロッパ最大と言われる設備がある生地・ファクトリーなのだが、美しく眩いばかりのショールーム、ネクタイ、ニットタイ、スカーフなどの製品部門(生地ではなく最終製品)を持ち、それだけでなく、「DIVISIONE DI MARE」(直訳は海専門事業部)というビーチウェアを中心に作っている部門までもがあった。

ヨーロッパを代表するファクトリーなのに遊びがあり、同時に高いセンス、哲学がそこに存在し、世界レベルとの距離をまざまざと見せつけられた瞬間だった。

CANEAPA社は、生粋のファクトリーでありながら、彼ら自身のブランドも手がけているとてつもないポテンシャルを持っていたのだった。


日本ではほとんど見られないファクトリー・ブランド(工場がブランド化する)はイタリアから無数に生まれている。

その世界観をダイレクトに目の当たりにした、当時の私と佐野はかつてないほどの衝撃を受けた。その時でさえ、日本の工場より30年以上進んでいるように思われたが、今後日本人が目指すべき工場の未来の姿はそこにあったのだ。


陽が当たる美しいショールームにはクラシック音楽がかかり、そこでGIORGIO氏などから今シーズンのプレゼンが始まる。そして、ヨーロッパ中のアーカイブが収納された図書館のように巨大な資料室にも案内される。

「僕達のプレゼンだけでなく、君たちクライアント側のインスピレーションが大切だ」とよく語っていた。

そして、最も私と佐野を驚かせたのは、CANEPA社で働く人々のオーラとプライドを感じたことだった。「俺たちがヨーロッパの服飾文化を支えているんだ」と言わんばかりの表情で「キラキラと働く人々」に圧倒された。

COMOの美しい湖や山々、自然と共生する圧倒的なクリエーション、次々に繰り出される珠玉のシルク・ファブリックの数々。

ヨーロッパの服飾文化はとてつもなく深く、果てしなく遠かった。



つづく

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