上品なお洒落について Vol.3
さて、ファッションの達人である母親に対して、 私の父である貞末良雄は鬼のこだわりを持つ人でした。 お洒落というより、本物であることへのこだわり、 ライフスタイルを持つことの大切さを教えてくれました。
父のスタイルは、
上質なシャツやポロシャツ、ウールやカシミアのセーター、
スーツはエルメネジルド・ゼニア(伊)、
ボトムスはジーンズよりコットントラウザーズで、
靴はジェイエム・ウエストン(仏)、
時計はロレックスのオイスターパーペチュアルを長年愛用し、
晩年になると、パテックフィリップのアクアノートという
スポーツウォッチを愛用していました。
そして、昔から車が好きでビーエムダブリュー(独)を
長年に渡って運転していて、
ドイツの物作りの精神を自ら体感していました。
また、食に対しても並々ならぬこだわりを持っていて、
自分で包丁を研いでは玉ねぎと胡瓜のサラダを作り、
その切れ味からくる美味しさ
(包丁が切れると切った野菜の断面が綺麗で美味しい)
について語っていましたし、食べ物好きが講じて、
鎌倉シャツの本店では自分でカレーを作って、
お客様に提供しているくらいでした。
「服の商売をする上で食を語れない人は大成しない。
服とはライフスタイルであり、
表面的なファッションではないのだ。」と、
子供の頃から聞かされてきました。
確かに父の実家は、
山口県の柳井市では評判の料理屋でしたし、
世界中のファッション業界で成功されている方の中で、
食について語れない人はいないのではないでしょうか。
私が会っているヨーロッパのファッション業界の人達も、
その食のこだわりは異常で驚かされるばかりです。
むしろ、
私自身は彼らと服やファッションの話はあまりすることはなく、
ビジネスの話以外では食の話やライフスタイルの話がほとんどです。
さて、鬼のこだわりを持つ父のスタイルですが、
まさに「質実剛健」という言葉がしっくりきます。
オックスフォードのボタンダウン シャツか鹿の子編みのポロシャツ、
靴はウエストンのローファーかゴルフで、
時計はロレックスのオイスターパーペチュアル、
車はビーエムダブリューを愛用してたことからよく分かります。
ウエストンのローファーは美しく、普遍的で、しかも丈夫であり、
私も小学生の頃から勝手に借りて履いたりして、楽しんでました。
ロレックスのオイスターパーペチュアルも同様にシンプルに美しく、
完成されたデザインでありながら、堅牢性が高い傑作で、
私が二十五歳の時粘りに粘って父からもらうことが出来ました。
ビーエムダブリューについては、デザインの美しさ、
エンジンの会社だけあって、エンジンの素晴らしさや、
安全性の高さについては言うまでもありませんが、
「駆け抜ける喜び」というユニークな社是が有名です。
父はいつもそのことを語っていました。
「A地点からB地点まで向かう。
その目的を達すれば良いと思うのが普通の自動車メーカーで、
ビーエムダブリューは目的地に達することはもちろん、
その過程を楽しむことを重要視したメーカーである。」
と口癖のように話していました。
母や父に共通するのは、できる限り上質な物や本物を求めること、
服だけを捉えるのではなく、
ライフスタイル全体を捉えることの大切さを教わりました。
いすれにしても、人と違う服を着ることではなく、
ベーシックな服を大切に着ることが上品なお洒落なのだと思います。
「主役は服ではなく自分」であり、
服が自分より目立つ着こなしは上品なお洒落ではなく、
ワールドスタンダードでもなく、
単なる日本的なコスプレファッションなのです。
世界のファッショニスタが集うイタリアの展示会
「ピッティ・ウォモ」には、
奇抜なファッションをした方も多くいらっしゃいますが、
彼らには洋服の文化的背景があるので、
ある程度何をやっても許されますし、サマにもなります。
ところが、日本には洋服の文化的背景がないため、
奇抜なファッションをした日本人は
単なるコスプレになってしまっているのが現状です。
残念ながら、いきすぎた日本人のファッショニスタ達は、
現地では単なるコスプレとして
映ってしまっている場合がほとんんどなのです。
私達日本人が目指すファッションは、
時代を超えて愛されるベーシックを追求することであり、
目立つつもりはないのに目立ってしまう
「地味派手」を上品なお洒落として定義するべきなのです。
決して、服だけが目立つことなく、
肝心の主役であるご自身の邪魔をしないファッションを
心がけることが大切です。
貞末 哲兵
商品やサービスを紹介いたします記事の内容は、必ずしもそれらの効能・効果を保証するものではございません。
商品やサービスのご購入・ご利用に関して、当メディア運営者は一切の責任を負いません。