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欧州出張<前編>

前・中・後編にわたってレポートする欧州出張コラム、お楽しみください。

2024.04.10 ブログ

出発

今、これを書いているのは、2024年1/10(水)の8:30を少し回ったところで、JAL機内で離陸を待っているところだ。

天気は快晴で、今回はクリエイティブ・デザイン室長の杉江、企画ディヴィジョン長の小林と私の3名での欧州出張となる。

ヨーロッパを追い続けて足掛け20年になるが、行く度に世の中の変化と自身の変化を感じることが出来るのは、幸運というより他ないだろうと思う。

今回は、コロナ後2回目のヨーロッパ出張になり、まだ現地に着いていないものの、すでに人々のマインドの変化やファッション産業の大きな移り変わりを感じ始めている。

おそらく人類は、コロナを一つのきっかけに、戦後最大のパラダイムシフトを迎え、世界は急速に変化し、人々の考え方は劇的に変わったのだと思う。

あまり考え方が変わらなかった人もいるかもしれないが、そこは時代の変化に順応していかなくてはならない。

世界や人々は具体的にどう変わったか?

なかなか説明するのは難しいのだが、ここは例によって(?)3種の神器を引用しながら、ファッション(は世相を常に反映する)の観点からどのように世界が変化したかを考察、説明してみたい。

コロナ前:3種の神器

・イタリアのサングラスメーカーであるPERSOL
・スイスの高級時計メーカーのROLEX
・そして、イタリアのドライビングシューズメーカーであるTOD’S

コロナ後:3種の神器

・アメックスのグリーンカード
・アップルウォッチ
・ニューバランス

コロナ前はパッと見で、なんとなくリッチでラグジュアリーな雰囲気のお洒落だったのに対して、現在は知的且つ控えめな、ステルス※時代へと突入したのである。
※隠す、見分けがつかないなどの意味

また、私自身のコロナ前からの変化で言えば、海外に行くからといって変に力むことがなくなった。

以前はヨーロッパの優れた人達に認められたいという気持ちもあったし、それが言葉の習得も含めて一つの目標でもあったのだが、今は認められようがそうでなかろうがどちらでもよし。と思うようになってしまった。


歳を取ったのだろうか。
もしかしたら、おじさんになって開き直ったのかもしれない。


ただ実際のところは、ZENとの出会いなどによる自身の変化や「鎌倉という背景を持ったことによる自信」が大きく影響しているのではないかと思っている。

鎌倉・浄智寺の朝比奈さんと私▼

それでは、なぜヨーロッパに行き続けるのか。

それは、ある物事を見る時や一つの真実(ここではシャツやファッション)を導くために必要なのは、相反する二つ以上の事象や場所を体感することにあるからである。

一つの物事を一つの地点から見続けていても、そこから答えが導き出されることはない。


これは言葉ではなく、創業者である貞末良雄、民子が彼ら自身の行動によって私に示してくれたことでもある。


「哲兵、服はヨーロッパだぞ。
お前が日本にだけ居てするような仕事は、ある意味誰でも出来ることだ。
本場に足を運び、自分の言葉で語り、その目で直に見るのだ。」


「てっちゃん、あなたがヨーロッパの紳士達と肩を並べて立派に渡り歩くことが私の夢でもあるのよ。」

そんな創業者達の言葉を思い出す。


彼ら自身が、ヨーロッパを追い続けていたからこそ、それがカウンターとなって、今日の鎌倉シャツの礎となるメイド・イン・ジャパンが確立されたと言ってもいい。

日本という狭いコミュニティに居続けて、日本人にしか届かない場所で、メイド・イン・ジャパンを声高に叫ぶのは、ナンセンスであるばかりでなく、日本製のシャツや洋服を極めることなど到底出来ない。(巷ではそういう人が増えてきたが騙されないようにしたい)


なぜなら、洋服は西洋をルーツ、起源にしているからである。
まず、「洋服は日本の物ではない」という前提からスタートしなくてはならない。

今も昔も、鎌倉を本拠地にする鎌倉シャツにとって服における相反するカウンターとは、間違いなくヨーロッパであり続けるだろう。(アメリカも一部あるが生産背景はほとんどなくなってしまった)

もし、私が生まれてこのかた鎌倉に住み続けて、ファッションの観点から鎌倉の良さを語っても意味はなく、説得力にも欠ける。
そういった意味でもヨーロッパを追い続けてきたからこそ、鎌倉が光り輝いて見えるのである。


そして、もう一つ真実を発見する方法がある。
それは、出来る限り「その道のスペシャリストに会うこと」である。

洋服ならば、イギリスの優れた人達、イタリアのクリエイター、フランスのデザイナー達がそれに当たるだろう。

何かを本当に知りたければ、出来る限り優れたその道のスペシャリストに会うことである。

シャツの真実を掴みたいならナポリの工場に行かなくてはならないし、ネクタイでいえばコモを知らずして語れることは何一つない。

他には、ZENが知りたければ、ルーツである鎌倉や京都の僧侶の方々に会うことだし、災害が起きた時は、鎌倉在住の日本屈指のスペシャリストである寒川一さん※などに直接お会いして、お話をお伺いすることである。
※焚き火、防災のスペシャリストで、鎌倉シャツとコラボしたSURVIVAL SAMUEが記憶に新しい

禅の達人、京都・退蔵院の松山大耕さんと私▼

焚き火の達人、寒川一さんと鎌倉・浄智寺の朝比奈さん▼

服でいえば、もちろん日本にも優れた人はいるが、ヨーロッパはサッカーでいえば、プレミア・リーグ※、セリエA※、リーガ・エスパニョーラ※のようなもので、オールスター級の凄い人達がゴロゴロいる。
※サッカーにおける世界のトップリーグ

そう、ここヨーロッパこそが服やファッションにおけるトップリーグであり、ワールドカップなのである。

ヨーロッパに行く意味とは、鎌倉と相反する世界を体感すること、世界中の優れたクリエイター達と現地で対話することに他ならない。

インターネットや、Instagramでは決して感じることの出来ない「生のファッション」や「今」に触れる旅が、今回も始まったのである。

ドイツのASCOT社との商談


今これを書いているのは、現地イタリア・フィレンツェで、1/12(金)1:30である。

午前中は2件の商談があり、午後はPITTI IMMAGINE UOMOを視察後、ホテルに戻った。

コバぶろぐをご覧いただいた方はご存知かもしれないが、まず100年以上の歴史を誇るネクタイ・メーカーであるドイツのASCOT社との商談があった。

ASCOT社といえば、皆さんもご存知のニットタイであり、その名声は世界中で知れ渡っている。

世界でニットタイを安定供給出来るのは、イタリアのCANEPA社とASCOT社のみだが、前者は多彩な素材使いやクリエイティブを主体にしていることに対して、後者は、使用されている世界最高品質のシルク糸本来の良さや、彼らしか持っていない特殊機械で、極限まで度目を詰めて編みあげるスーパー・クオリティで勝負している。

ドイツ・ドゥセルドルフに位置し、13年前に訪問したことがあるのだが(それ以来行けていない)美しくエレガントな街並みに魅力されたことを覚えている。


ASCOT社は、約半世紀に渡ってエルメス社のニットタイを供給し続けており、その理由は彼らが最高品質を作っていることはもちろんなのだが、実は創業者であるティエリー・エルメスが同じドゥセルドルフ近郊の出身であったことも影響しているそうである。

特集ページはこちら

今年の春夏からデリバリーされるASCOT for Maker’s shirt鎌倉のコレクションの中に、歴史あるASCOT社が、鎌倉シャツのためだけに作ったESCLUSIVEである新色、「KAMAKURA ネイビー」がデビューすることになっている。

既存のスワッチにあるネイビーも素晴らしいカラーなのだが、鎌倉シャツはネイビーには特別な思い入れがあるため別注することにしたのである。

ASCOT社は格式が高く、通常オリジナル・カラーの別注は受け付けていないのだが、鎌倉シャツに対する信頼があったことも手伝って今回のESCLUSIVEが誕生したのである。

ASCOT社が付けたカラー・コードは#48。
(通常のマーケットにあるネイビーは#1)

この番号を使えるのは、鎌倉シャツだけであるのはもちろん、この番号を言えば、世界最高品質のシルク糸を「KAMAKURA ネイビー」に染め上げ、彼らしか持っていない特殊機械で編み上げた唯一無二のニットタイが完成する。

ちなみに、このブログを読んでいる方の中にはファッション業界のバイヤーさんがいらっしゃるかもしれないが、カラー・コード#48は鎌倉シャツしか使えないのであしからずご了承いただければと思う。


今回は、#48を秋冬用に追加発注したのはもちろん、バイヤー・小林の肝煎り企画となったメランジ(複数カラーを同時に編み上げた無地)・コレクションが久しぶりに復活したので是非ご期待いただければと思う。

エルメス社は馬具から始まり、バッグ、小物、アパレル・コレクションに至るまで、比類なき最高品質を追い続ける世界一の会社といえる。

鎌倉シャツは、価格こそ違えど最高品質を追い続け、エルメスと同じスーパー・クオリティのニットタイをお客様の手の届く価格で提供し続けていきたいと思う。

ASCOTニットタイ一覧はこちら

ポルトガル・ポルトにある某社のANTONIOさんとの商談

今これを書いているのは、1/12(金)現地時間の4:30を少し回ったところである。

今日からミラノに入り、イタリアのトラウザーズ・ファクトリーであるSANTANIELLO社のショールームを訪問した後、コモのシルク織物・プリントファクトリーであるMANTERO社を訪れることになっている。

昨日は、ASCOT社とのアポイントの後、ポルトガル・ポルトにある某社のANTONIOさんとの商談があった。

彼と最初に出会ったのが、ある欧州の知人を介してポルトを訪問したおよそ10年前に遡る。

約20年くらい前から、フランスやイタリアに生産背景がなくなりつつあり、多くのデザイナー・ブランドやメーカー達はその生産拠点をポルトガルに移し始めていた。

古くはイタリア・ベネツィアで創業したINCOTEXが早々とメイド・イタリーに見切りをつけ、ポルトガルに生産拠点を持っていたことでも知られている。

現在も多くのイタリアの高級パンツ専業メーカーを始め、フランスのBERNRD ZINS※などもメイド・イン・ポルトガルで最高峰の物作りを実現している。
※フランスの高級パンツ専業メーカー

INCOTEXらがいち早くメイド・イン・イタリーに見切りをつけてポルトガルに生産拠点を移したことは先に述べたが、その理由はコストと品質をバランスさせることにあった。

彼らにとってイタリアでの物作りが1番信頼できるのは間違いないが、今後ビジネスを拡大するにあたってコストがネックになっていた。

そこで彼らは人件費も安く、物作りにも定評のあるポルトガルに生産拠点を移すことにしたのだった。
さらに近年、東欧・ルーマニアにまで生産拠点を拡大するまでに至っている。


今では、INCOTEXは世界的なパンツ専業メーカーとして知られているが、彼らがイタリアのファクトリー・ブランドでありながら、イタリアで物作りをしていないことはあまり知られていないし、消費者も気にしていないのが現実である。

上記理由もあり、私は欧州の生産拠点としてポルトガルに魅力を感じていたため、独自のルートを探していた。

そこである知人を介して知り合ったのがANTONIOさんだった。
とても愛想が良く真面目なポルトガル人で、いつか一緒に仕事をする日が来ることを願って、定期的に会うことにしている。

鎌倉シャツがいずれ欧州に出店し、拡大戦略を持った時にポルトガルは必要となってくる可能性がある。

その可能性は僅かかもしれないが、あらゆる仮説を立てて、様々な角度からシミュレーションをしておくことが肝要なのである。

パンツ・スラックス(トラウザーズ)一覧はこちら

PITTI IMMAGINE UOMOのレポート

今これを書いているのは、2024年1/13(土)の現地時間18:00である。

昨日フィレンツェからミラノに移動して来て、コモに入り一件商談の後、ミラノに戻って一泊した。


様々な発見や驚きがあったのだが、まずは105回目を迎えたPITTI IMMAGINE UOMOのレポートをしてみたい。

カラーの傾向は、ベージュとライトグレー。

ここまで各ブース共に、色のチョイスが同じPITTI UOMOは初めてと言っていいくらいである。

ベージュが淡くなって白に近くなったり、濃くなってブラウンまでの広がりや、グレーも淡くなったり、チャコールまでといった感じである。

個人的にはチャコール・グレーやブラックがもう少し多くなると想定していたが、ほとんど見られなかった。

24秋冬は、ネイビーすら少数の淡いライト・トーンのシーズンである。

ベージュとライトグレーのカラー傾向は、コロナ前の数年前から、クチネリ※やロロ・ピアーナ※などが得意としていたライトカラーのトーン・オン・トーンの展開で、雰囲気としてはラグジュアリーなカジュアル・ルックの提案が多くみられた。
※最高級素材を使ったイタリアのラグジュアリー・メーカー

ネクタイ・メーカーのブースは0に近く、各サプライヤーからネクタイの提案もかなり少なくなっていた。

ニット・ウェアやブルゾンなどスポーティな提案が多く、スーツやチェスター・コートなどはあってもセンツァ・インテルノ(裏地なしの意味・イタリア語)以外はほとんどなかった。

全体的にカジュアル、スポーティ、軽さ、そしてライト・トーンのラグジュアリーなスタイリングということになるだろう。


ボトムでは、コーデュロイの提案が多くみられ、長きに渡り全盛だったインディゴ系はトップスと共に減少傾向のようである。

私の正直な感想で言うならば、PITTI自体に新鮮さはあまり感じられなかったものの、鎌倉シャツとして、どのような提案と真新しさを見せるかが、コバぶろぐでお馴染みの小林以下企画チームの腕の見せ所となるように思う。


世界的な傾向を受けて、2024年秋冬の鎌倉シャツの提案に乞うご期待いただければと思う。

顧客の皆様に喜んでいただくことを最優先に、僅かな変化と新しさ(ほとんど分からないような)を出せるようなシーズンにしなくてはならないのである。

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<中編>へ続く

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