シャツ屋 再びニューヨークへ
2020年末、8年間営業した鎌倉シャツMadison店は、コロナの影響を受け、撤退を余儀なくされました。創業者である両親の夢であったニューヨークの店を、自らの手で終わらせなければならなかったのは、まさに断腸の思いでした。
しかしながら、日本もどうなるか分からない状況で、海外店舗を維持するまでの体力はありませんでした。
その時に、絶対に日本の鎌倉シャツを立て直し、もう一度ニューヨークに拠点を設けることが、私の大きな目標となったのでした。
そして、2023年10月、3年半ぶりにニューヨークの地に降り立ちました。世界を恐怖と混乱に陥らせたパンデミックからようやく落ち着きを取り戻しつつある時でした。
久しぶりのニューヨークは、コロナ前後で変わったところもたくさんあったけれど、それでも私は懐かしさで胸がいっぱいになりました。
かつては華やかな賑わいを誇っていた五番街も、空き区画が散見され、中心地にあったいくつかのホテルは廃業し移民のシェルターになっていました。
治安も悪化していて、コロナの傷跡は確実にありましたが、それでもこの世界の中心地では、ビジネスパーソン、ツーリストが行き交う力強い経済の鼓動が感じられました。
この時の出張は、3年半、孤軍奮闘してニューヨークを守ってくれた土田純子との再会が目的でした。
「来年には、再上陸を果たしたい」そう誓った出張となりました。
「鎌倉シャツの火をニューヨークから絶やしてはなりません!」Madison店のスタッフだった土田純子が、定期的にオーダーシャツの受注会を開いて、現地の顧客さまとの関係を続けてくれていたのです。
彼女の評判が評判を生み、新規顧客もどんどん増えていきました。日本製の美しいシャツが、自分にぴったりフィットするという特別な体験は、ニューヨークのみならず、全米、ヨーロッパへと広がっていったのです。
Madison店の顧客は、グローバルオンラインストアをご利用になりながら、「いつかまたニューヨークに戻ってきて欲しい」というお言葉を下さいました。
最近は、日本旅行もブームなようで、各店舗に「Madison店の顧客だったんだよ」とお立ち寄りされるケースも散見されるようになりました。
ニューヨークでの8年間という年月は、鎌倉シャツにとってプライスレスなものとなっていたのです。
コロナ禍で悪化した業績は、日を追うごとに回復してきました。中期経営計画で策定したスケジュールより早く会社の状況が良くなったこともあり、ニューヨークへの再チャレンジは早まりました。
そしてついに、2024年9月19日、クローズしたMadison店にほど近い、グランドセントラルステーション直結のThe Graybar Building内に、新しい業態の鎌倉シャツオーダーサロンがオープンしたのです。
店舗があった時から、オーダーをご利用になる方が多いのは、様々な人種が行き交うこの街ならではの現象かと思っておりました。そのため、敢えて「オーダーサロン」という形でのチャレンジとしました。
初日は、朝9時から夕方5時まで予約枠はいっぱいで、ご新規さま、顧客さまとゆっくりとご挨拶することが出来ました。
皆さま一様に「Congratulations!」「welcome back!」という言葉を下さいます。「もう一度、会えて嬉しいよ!」そんな言葉を頂くと、帰ってきて良かったという思いでいっぱいになります。
サロンにいらした方でご新規さまに「どうやってこのサロンを見つけたの?」と伺ってみたところ、「シャツを探していてグーグルでサーチしたら出てきた。評判が良くリーズナブルだったので」 そんな回答を頂きました。若い方が多かったです。
顧客さまに同じ質問をしたところ、「メールマガジン見て、早速、予約をしたんだよ!」「インスタで見て」という回答が多かったです。
鎌倉シャツをお召しになってくる方もいらっしゃいました。「いつも着ているよ!店舗がなくなってからは、オンラインで購入していたよ」という方もいらっしゃいました。アメリカ人も、実はちゃんと予約した時間を守っていらっしゃいます。意外ですか?超多忙なニューヨーカーは時間を大切にしています。
かつてのMadison店のお客さまは、アメリカ人、ヨーロッパ人がほとんどでした。日本製の高品質のシャツを日本のサービスで販売している唯一無二の店舗として、高い評価を頂いていたのです。
目の肥えたユーザーは、我々のシャツの素晴らしさをすぐに見分けました。審美眼のある方が多いマーケットは、商売人にとっては腕がなる、まさにチャレンジすることが楽しく、そして評価頂けたとこが大きな自信に繋がっていったのです。そんな方々が忘れずに待っていて下さいました。
早速、サロンに訪れたお客様の一部をご紹介します。
「たかがシャツ、されどシャツ」。鎌倉シャツが、日本のみならず世界中のお客様のご自宅に入り込み、ワードローブの一員となって、日々のお供をする。日常のささやかな幸せに寄り添うことが出来るこの仕事に大きな誇りと喜びを感じます。
「世界で活躍するビジネスパーソンをシャツで応援する」この企業理念を実現するために、鎌倉シャツはこれからも挑戦を続けて参ります。
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