鎌倉シャツもう1人の創業者との対話 Vol.1
鎌倉シャツ副社長でディレクターの貞末哲兵が、創業者である母・貞末タミ子について語ります。
鎌倉シャツの創業者は貞末良雄とタミコ夫妻だが、今回はタミコとの対話を振り返ってみたい。
彼女は、鎌倉ではお洒落で有名な経営者だった。
ジーンズはあまり履かなかったが、定番のレイバンのウェイファーラーに、シャツ(白かシャンブレー、ポプリンのロンドン・ストライプやギンガムチェック)、ボーダーのニット・カットソーや淡いベージュのカシミア・セーターなどにネイビー、ベージュ、ホワイトなどのパンツを合わせ、使い込んだエルメスのスカーフと、バーキンをラフに合わせるのが得意のスタイルだった。
私が幼少の頃の写真から彼女のファッションを確認することが出来る。
運動会において、私がネイビーのショーツにセント・ジェイムズのカットソー(この配色、ピッチは現在展開があれば着てみたいほど完成されている)を合わせており、彼女はレイバン、ギンガムチェックのシャツにネイビーパンツを合わせているのは秀逸だと思う。
幼い頃、よく彼女が私の着こなしを褒めてくれたのを思い出す。
タミコ 「あなたはいつも色合わせが上手ね~!」
私 「そうかなぁ、ある物を着ているだけだよ(笑)」
アパレル一家に生まれた私は良質な物に囲まれて育ったが、色の合わせ方については良雄ではなく、タミコの影響を大きく受けたのではないかと思っている。
(写真の服装もお互いネイビー系でコントラストがあまりない)
この時の彼女の着こなしは、今日でも通用するのは間違いないが、このスタイルはやろうと思ってもなかなか出来るものではない。特にレディース・ファッションの多様化は進み、雑誌だけでなく様々な媒体やSNSが氾濫し、結局何を着ていいか分からない人も多いと思う。
現在の混迷を極めるレディース・ファッションや着こなしにおいて、最も大切になってくるのは「スタイル」を持つことではないだろうか。
彼女は彼女流のファッション、スタイルを「地味派手」と呼んだが、出来るだけシンプルに、奇を衒わず、上質な物を色数絞って着用する。
一見すると普通(地味)な着こなし(上質な素材、抜群のサイズ感)の中に、レイバンや使い古したエルメスのスカーフをプラスするだけで、華やか(派手)になるのが最高の「お洒落」である、と彼女は言いたかったのだと思う。
しかし、それは簡単なようで難しい。
普通、お洒落を狙うと服が派手になり、アクセサリーも主張してしまう場合がほとんどだし、「何か特定の物が目立ってしまう」ことは「地味派手」とは言えない。
ファッションはシンプルであればあるほどいいのだが、サングラスやスカーフは付け慣れていないと浮いてしまう場合もある。特にシルクのスカーフはピカピカの新品だと主張が強すぎるし、バーキンも同様で、また、サングラスは日本においてハードルの高いアイテムであることも事実だ。
だが、シンプルのみのファッション(地味)から抜け出し、華やかなスタイル(派手)に挑戦するには、小物使いは欠かせない。
どうしたらいいのだろうか。(わからなくなってきた)
ラルフローレンの言葉「FASHION IS ALL ABOUT ACCESSORY」にもあるように、ファッションにはアクセサリー使いが重要なのは間違いない。
いずれにしても、地味派手の「派手」を演出するためには、服ではなくアクセサリーのこなし方が鍵になってきそうだ。
服の話に戻そう。
私はギンガムチェックのシャツが好きだが(着るのも)、彼女以外に着ている女性をほとんど見たことがない。
ギンガムチェックは、フレンチ(アイビー)的なファッションには欠かせないし、マリンを演出するには最適なアイテムでもある。
他にも伝統的なチェックは着こなしによって、季節を上品に演出するものだが、取り入れている人はほとんどいないのが現実だ。貞末タミコはブラックウォッチのバミューダ・パンツも好きだったようで、彼女のコラムからも確認することができた。
「典型的なスタイルはもちろんボタンダウンシャツですが、紺ブレ、ローファー、ヨットパーカー、トレーナー、
そして膝丈まであるバーミューダパンツ、レジメンタルタイと色々あります。
ちなみに私は10代のころ、海に出かけるときはブラックウオッチのバーミューダパンツを好んではきました。
ただ彼らの基本スタイルはベーシック、上品です。」(コラム「NYCとIVYと私」より一部抜粋)
当時、10代にしてブラックウォッチのパンツを取り入れてしまっていた湘南ガール恐るべしである。
彼女は、フォーマルやビジネスの場では、シャネル・ジャケットも愛用したが、普段着として好きなスタイルは鎌倉らしいトラッドな「マリン・ルック」だった。
鎌倉に生まれ、鎌倉で育った生粋の鎌倉っ子だったが、彼女を「ハイカラ」と表現するにはまだ世代は若く、「お洒落な鎌倉マダム」というのが、ピッタリくる言葉のように思う。
(つづく)
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