鎌倉シャツ創業者との対話 Vol.1
鎌倉シャツ副社長でディレクターの貞末哲兵が、創業者である父・貞末良雄について語ります。
2012年、鎌倉シャツは念願のニューヨーク出店を果たした。
今から10年以上も前の話になるが、当時社内ではニューヨーク出店のリスクとリターンについて議論されていた。
実際には議論というよりも創業者夫妻の独断で決まったようなものだが、下記のようなやり取りがあった。
私 「ニューヨークで売れなかったらどうしますか?会社にとってリスクが大き過ぎるのでは?」
創業者 「俺はニューヨークのみんなに売りたいわけでも、儲けたいわけでもない。マジソン街のエリートビジネスマンの7%の人達に分かってもらえればそれでいい。その7%が多くの人達に伝えてくれるはずだ。それで勝算は成り立つ。」
彼は、よくマズローの5段階欲求を作る三角形を描き、鎌倉シャツのマーケティングに例えていた。
「我々のカスタマーはマズローの5段階欲求の1番上にいる自己実現を成し遂げた人達である」と断言していた。
当時の私は、常に創業者の言葉のエネルギーに圧倒され、鎌倉シャツのマーケティングやターゲットの本質を知ったように思う。
創業者 「鎌倉シャツはどうやって創業したか覚えているか?」
私 「それは分かっているつもりです。」
創業者 「1993年の創業時、シャツ専門店を始めると言ったら俺はクレイジー扱いされ、多くの人に止められたよな?」
私 「そのように記憶しています。」
創業者 「だが今はどうだ? 日本の良い場所にお店が出来て、皆賞賛してくださっているだろう?俺だって未来が見えていたわけではないが、商売をする上で大事なのは計算ではない。自分の信念を貫き通すことだ。他人は責任のない批判をしても結果に責任は取らないし、結果が変われば手のひらを返す。それだけのことだ。」
なんとも武士のようなことを言う人だったが、今でもこの時の会話をよく思い出す。
つい先日も引退した創業者に会ってこの話をしてみた。
私 「我々のカスタマーは自己実現を成し遂げた層で合ってますよね?私が社内に言ってもなかなか説得力がないのでどこかに文献は残ってないでしょうか?あのマジソンの7%〜などもどこかに書いてありますか?」
創業者 「そのような文献は残っていないと思う。社内向けに言っていたことで、外では話していないはずだ。だが、我々の顧客像は、、、」
と、またあの時の三角形を描くようなしぐさをしてくれたのが無性に嬉しかった。
私 「マズローの5段階欲求って実は6段階だったのって知っていますか?自己実現を成し遂げた人達は自己超越に向かうそうですよ。何でしょうね?自己超越って?」
創業者 「そこまでは知らん。」
と言って笑う彼は実に幸せそうだった。
彼は何かを成し遂け、自己実現し、そして自己超越したのではないだろうか。
自己実現とは何だろうか?
「成りたい自分になることだ」と創業者はよく語っていた。
「そして、もう1人の自分を作ることだ。そのもう1人の自分は自分にとって最大の理解者であり、最も厳しい目で自分を見ている。」
というようなことを語っていた。
つまり、自己実現を成し遂げた鎌倉シャツの理想とするカスタマーとは、「成りたい自分になっている」「もう1人の自分を持っている人」ということになるが、それは凄まじくレベルの高い人ではないだろうか。
そんな人達を相手に商売をさせていただくのは並大抵のことではないと思う。
カリスマがいて語らないと、誰も分からない話かもしれない。
私 「もう一度会社に来て語ってくださいよ。」
と言いかけたが、かつて毎日違う服を着て自己実現をしていた彼は、今では自己超越し、ほぼ毎日同じ服を着ている。
禅的に言えば「無」になるということなのだろうか。
そんな彼に心配かけてはならない。
私や会社のみんなの力で次の鎌倉シャツを作らなくてはならないと心に誓い、彼の元を後にした。
(つづく)
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